原作ファンの神経を逆なでするテレビアニメの規制について考えてみる

今ではある意味ネタと化しているテラフォーマーズの規制。
しかし、その規制は他の作品にも波及していた

10月からスタートした秋アニメの中で、内容そのものではないところで話題となった作品がある。人気コミック原作で放送前から注目されていた「テラフォーマーズ」だ。観ていた人はもうおわかりだろう、今ではある意味ネタと化している“●”による規制の問題である。
この問題は大きな波紋を呼び、第1話から第3話まで、ニコニコ動画とGyao!に限定して規制を解除した“オリジナル版”を一挙配信する事態となった。
以前、「テラフォーマーズ」の作品レビューでも少し触れたが、今回、この規制について他の作品のことも交えて考えてみたいと思う。

「テラフォーマーズ」は近未来の地球と火星を舞台にした物語だ。その中で、能力や知能などが異常に進化した、人型のゴキブリ・テラフォーマーズと、そのテラフォーマーズに対抗するための人体改造手術を受けた人間との闘いが描かれている。問題の規制は物語の序盤、人間の犠牲者が多く出る展開で一気に注目されることになった。 その規制の方法は、テラフォーマーズの襲撃で胴体や首を切断されたクルー達の、内臓が露わになった部分や切断面などを、くっきりとした黒い丸(●)で隠すというものだった。

初めて観た時は本当に唖然とした。犠牲となった多くのクルーは、突然黒い球体のものを頭からすっぽり被った姿となってシュールなことこの上なく、高速でクルーの頭をもぎとったテラフォーマーは、次の瞬間ただ真っ黒なボールを抱えていて緊迫感も何も無い。ストーリーどころではなく、“●”ばかりが印象に残ってしまった。

規制が解除されたオリジナル版を観た時、テラフォーマーズのおぞましさや襲撃の際の絶望感、物語の持つ緊張感などが感じられて普通に面白い作品だと思った。同時に、苦手な人には辛いかもしれない衝撃的な描写があった事も確かで、規制は仕方がないという印象も持った。ただ裏を返せば、そうした残酷な場面も避けずに(おそらく原作に忠実に)ちゃんと描いているということでもあるのだから、非常に勿体ないなと感じた。もっと他に巧いやり方はなかったのかと。

近いところで同じような規制の仕方をした
作品がある。
2012年10月から2013年4月にかけて放送
されていた「ジョジョの奇妙な冒険」
(以下「ジョジョ」)だ。

ジョースター一族と吸血鬼ディオ(第1部)、
そして柱の男たち(第2部)との戦いを
描いた本作でも、凄惨な殺され方をした
人間の描写はいくつかあった。
「ジョジョ」の場合は、少し透けて見える
黒いもやのような影で、そうしたグロテスク
な場面のショックを抑えていた。

黒く覆って見せなくするという基本的な方法は同じだが、「ジョジョ」の規制の方が遥かに違和感なく、物語の邪魔をすることもなかった。もちろん、「ジョジョ」と「テラフォーマーズ」では物語の雰囲気が全く違うので、同じようにすれば良いということではないが、その作品の魅力を伝える上での配慮というものが、残念ながら違和感MAXの“●”規制を実施した通常版の「テラフォーマーズ」からは感じられなかった。

その「テラフォーマーズ」は4話以降、火星でテラフォーマーズたちとの本格的な闘いに突入しているが、6話まで規制は全くない。主人公の燈や仲間たちの持つ能力が徐々に明らかとなり、テラフォーマーたちとのバトルが非常に盛り上がってきている。このまま最後までストーリーに集中して、心置きなく「テラフォーマーズ」という作品を楽しめるような状況であって欲しい。

ところで、規制の対象となるのは、観る者にショックを与えかねないグロテスクで衝撃的な表現だけではない。明らかな違法行為の描写もその一つだ。

例に挙げた「ジョジョ」の第2期、2014年4月より
 放送された「スターダストクルセイダース」は、
 高校生である主人公の空条承太郎がお酒(缶ビール)
 を飲んだり煙草を吸ったりするシーンがある。
 未成年者の飲酒及び喫煙はれっきとした法律違反だ。
 アニメ化の際、原作ファンの間ではどのように表現
 されるのか注目されていたようだが、実際の放送では
 ビールがソーダに変わり、喫煙シーンは第1期と同様、
 黒いもやで覆ってなんとなく見えないようにすると
 いう方法で規制されていた。

少々違和感はあったが、規制されている部分が場面の中で強く主張することもなく、規制というよりは誤魔化しているという程度に留まっているような印象だった(ちなみに 、「ジョジョ」ではショッキングな場面などについても同じ方法で規制している)。

この未成年者の飲酒及び煙草の表現の問題について、とても象徴的な作品がある。今や国民的人気作となった「ワンピース」だ。主人公・ルフィ率いる麦わらの一味の1人、コックのサンジは愛煙家だが、原作では登場した当時は19歳だった。アニメでは表現そのものに規制はなかったが、サンジの年齢を20歳に変更して、合法であると体裁を整えた。表現面で規制するのではなく、設定を変更することで規制する必要を無くすというのも、有効な手段の一つだろう。
ただ、そもそも架空である「ワンピース」の世界に“未成年者の飲酒・喫煙は法律違反”という現実の日本の法律を当てはめて考えることも、少し奇妙な感じはする。日曜日の朝9時30分に放送されている「ワンピース」の場合は、低年齢層の子どもが視聴する事やその先の保護者たちの目を意識した結果として、サンジの年齢変更というのが一番妥当な措置だったのかもしれないが。

ちなみに、アメリカで放送されている「ワンピース」は規制が日本よりも厳しく、サンジの煙草はチュッパチャップスのような棒付きの飴に変更されているそうだ。また、成人であるはずの海軍大佐・スモーカーの葉巻も消されて、常に煙だけを口から吐いているような状況だとか。個人的にこれはやり過ぎだろうと思う。

事実、アメリカの「ワンピース」ファンに日本とアメリカ両方の映像を見せたところ、ほぼ全員が規制されたアメリカ版に不満を感じたという取材レポートもある。自由を謳うアメリカでのこうした規制については、正直なところ意外だと感じたが、アニメ作品というものに対する考え方や捉え方が、日本とは違うのかも知れない。

アニメに限らず、表現の自由はもちろん守られるべきものだ。しかし、年齢や性別を問わず誰もがごく簡単に視聴できるテレビというメディアで放送される作品については、どんな内容でも好き放題に垂れ流しても良いとは思わない。

適切かつ適度な規制は必要だ。ただ、近年では深夜に放送される作品でも表現規制が厳格化されている傾向にあると言われている。それであれば尚更、規制をする際には、作品の魅力を損なわないようにするより一層の努力や配慮は必要ではないだろうか。そして、これから生み出される新たな作品が、規制にがんじがらめになった、つまらないものになっていかないよう願うばかりである。

[ライター:オギヤスエ]

TERRAFORMARS(テラフォーマーズ)公式サイト
http://terraformars.tv/